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逆行中 #48
 逆行中 #48――



 空を見上げれば白い雲が沢山。
でも、それは、春の日差しを和らげてくれていて、
ちょっど暑かったから、それはそれで嬉しい。

「…二回目だねぇ。」
「うん、そうだね。」

ハーキののんびりした声に、フェイトものんびりと返した。
それは素なのか、それとも、また別の話か。
緊張にガリガリと削られそうになる心を護るためなのか、それとも、素で今の状態なのか。
ハーキにして、イマイチ、フェイトの心象がどちらかは分からなかったが、まあ、それも仕方がない。
理解しようとする努力をしても、それが身を結ぶのはなかなか難しいのだから。

「そう言えば、ミッドチルダって、のんびり周るの、私初めてだな。」
「僕もそうかも。」

後ろで、なのはとユーノがそんな事を言っていた。
出身こそミッドチルダ南部のユーノであったが、都市部など全く記憶にない。
まあ、物心付いた頃には、既にスクライアの一族の一員として、色んな次元世界を周っていたので、それはそれであろうが。

「でも、何だか、不思議な感じ。」
「何が?」

なのはの言葉に、ユーノは首をかしげる。

「だって、地球より文明レベルは上のはずなのに…そんなに変わらないよね。」
「ああ…人の生活って案外変わらないからね。」

もちろん、端々は、便利になっている。
例えば、洗濯や料理など、最早、初期設定さえあれば、後は勝手に終わらせてくれる。
しかし、それは味気ないという意見もやはりある。
そんなこんなで、色々と端々の細かい便利さがあがっても。

「結局、こんな外観になるって感じかな。」
「へえ〜。」

なのはが関心しているのを横目に、ユーノは都市を見上げる。
別に、そう珍しいものではないが、それでも、どこか閉塞感を感じてしまうようになったのは何故だろうか。
居並ぶビル群よりも、海が見える長寛な海鳴の街を好ましく思う。

(…ああ、そうか。)

ユーノはいくつかの自分の変化を楽しく思いながら、足を進める。

「ほら、ユーノも、なのはちゃんも、はぐれないように。」
「大丈夫だよ、子供じゃないし。」
「そうですよ。」
「……総ツッコミだよ、その台詞。」

子供が子供じゃない、とか言う台詞を言っても、説得力は皆無。

「だいたい、僕たちはまだまだ子供です。一年や二年でそう変わるもんじゃないよ。」
「分かってま〜す。」
「だよね。」

ユーノとなのはが軽く言って、フェイトも同じように頷いてみせる。
これはまたからかわれたのか、と思うと、ちょっとばかり虚しい。
まあ、ユーノ達もこういう年頃なのかもしれない、と思って、自分を慰めるハーキであった。



本日は、フェイトの執務官試験の合格発表日だ。
午後から行われる発表までは全員珍しく空いていたので、こうしてのんびりしている。
フェイトは待ち続けると思考が悪い方に悪い方にと流れていくので、こうして出かけていると言うわけだ。
そういうことなので、本日は4人で出かけている。
海鳴でもよかったのかもしれないが、まあ、それはどちらでも、と言う感じだ。

「フェイトちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ、なのは。」

微笑むフェイトに無理は見れない。
なのはからハーキとユーノはアイコンタクトを受けて、三人で頷いた。
何でもいいが、この三人、ちょっと過保護ではなかろうか。
フェイトもそれに察しがついているので、ちょっとばかり困った顔だ。
フェイト本人もそれには気づいているのだが、嬉しいから口に出せない。
でもまあ、あんまり過保護にして欲しくない気持ちもある。
ああ、ジレンマ。

「じゃあ、とりあえず喫茶店――」

お茶でもしながらのんびりしようか、とハーキが言う瞬間だった。

「動くな!」

そんな声が一つ向こうの通りから聞こえてきたのは。





声を出した男はひたすらに、思考を回転させながら、ニタリと笑う。
しつこく自身を追ってきていた男は、その手のデバイスを構えながらも、躊躇している。
愚策であるとは思ったが、決行したのは間違いではなかったらしい。
内心では物凄くびくついていても。

男は、AAクラスの魔導師であるが、犯罪者である。
傷害、及び、殺人事件の容疑者であるが現在逃走中であった。
そして、それをずっと追ってきていたのが目の前の魔導師だった。
正直な所、自分より腕は上であろうと男は理解していた。
だからこそ、無事に逃げ切るためにも――

「さあ、速く、そのデバイスを捨てやがれ!」

デバイスを捨てさせて、その後、目の前の男を行動不能にしてから、逃げると言う寸法だ。
ここで時間をくうと、更に管理局員が集まってくる可能性がある。
なるべく急ぎたい所であった。

「こいつがどうなってもいいのか!」
「あ、ぐうう!」

右手に力を込めれば、あがるのはうめき声だ。
首筋を押さえ込まれた一般人が苦しがっている。
愚策だ、本来なら人質など。
だが、この一瞬を解放するだけなら――

「やめろ、分かった、捨てる!」

管理局の男は、手に持っていた短銃のデバイスを床に放り投げた。
それでも、男は用心、と言い聞かせるように、素早くその管理局の男に向けてシュートバレットを撃ち込む。
足を撃ち抜かれて、男は呻くと共に、膝をついた。
その足からはダラダラと血が流れていく。
殺傷設定の攻撃に、周りにいた野次馬から悲鳴が上がる。

「足を貫けば…いや…」

そう言えば、と男は思考する。
先ほど、目の前の男は空を飛んでいたはずだ。
空士なのだと思い出せば、足を貫いただけでは到底安心できない。

だが、殺すのか、と、男は自問する。
確かに男は殺人犯になっていたし、人を傷つける事を恐れる人種でもなかった。
だが、殺人犯になったのは偶然だったし、必要以上に傷つけるのも嫌いだった。
本来、人質なども持っての他だ。

だが、とも思った。

既に、一人殺してしまっていて、ここでこの男を行動不能にして、その後はどうなるのだろう、と男は思った。
また別の奴が追ってくるだろう。
ならば、今の行動に意味があるのだろうか。
さっさと捕まってしまう方が――

「おおおお!」

思考しているのは隙になったのか。
咆哮を上げながら気を逸らしていた間に、管理局の男は飛行魔法を発動させて、体当たりをしかけてきていた。
咄嗟に、体は動いていた。
魔力を集めて、目の前の人物を――

「リングバインド!」
「チェーンバインド!」
「ライトニングバインド!」
「レストリクロック!」

向けようとした手は突如はまった緑の環に拘束され、動かなくなった。
腕の中にいた人質は緑の鎖が拘束し、一気に攫われた。
そして、雷と桃色の光が四肢を拘束し、完全に空間に固定されてしまった。

(これは流石に酷くないか?)

そんな事を言えない立場だとは分かっていたが、それでも、言いたくなる瞬間はやはりあるのだと、男は悟る。
そして、悟った瞬間、突っ込んできた男の体当たりをくらって、意識が途絶えた。



「…バインド祭りだね。」

フェイトの言葉が4人の表情を苦笑に変える。
4人の視線の先では男二人が突っ伏した光景が目に入る。

「大丈夫ですか?」

ユーノはチェーンバインドを解除して、人質になっていた女の人に話しかける。

「は、はい、ありがとうございます。」
「怪我は、ありませんよね。」

とりあえず喉元には回復魔法を当てておくが、他は問題なさそうだった。
その間に、フェイトとハーキは重なり合って倒れている男二人の方に近づいていく。

「フェイト、とりあえず、犯人の方の男は拘束しておいて、僕はそっちの人を介抱するから。」
「うん、分かった。」

ぐったりとして倒れている管理局の空士を見て、ハーキは、とりあえず、その人を楽な姿勢にしてあげる。
貫かれた足からの出血は酷いが、致死量ではまだない。
意識は失っているが、体当たりの衝撃と失血しているから脳震盪を起した程度のようだ。
とりあえず、足に回復魔法を当てながら、フェイトに声を掛ける。

「こっちの人は大丈夫みたいだ、そっちは?」
「何か…安心した顔して倒れてる。 とりあず、バインド強化しておくね。」

フェイトがギュッと手を握り締める動作をすると、ライトニングバインドが男の全身を包み込んだ。
そつのない構成に、ハーキは満足そうに頷いた。

と、一連を見守っていた野次馬の向こうから、サイレンの音が聞こえ始めた。




「…というわけで、遅れました、申し訳ありません。」
「いいえ、連絡は来ていましたから。」

結局、あの後、事情聴取やらなにやらで、既に夕方だ。
執務官試験の発表は午後一時に、合格者の受講と共に開催される予定だった。
ちなみに、合格者は全て名前を読み上げられる。
そして、受からなかった人はそのまま退場願います、だ。
あまりにも酷い気もするが、それでもめげずに受け続けろ、と言う事なのだろう。

フェイトは連絡が行っていると言う言葉を聞いて、ホッとする。
が、これでもし、落ちていたら、本当に申し訳ないなぁ、とも思ってしまう所であったが。

「それでは、結果の方ですが――」
「はい。」

と――
唐突に、後ろからバタンと、扉が開く音がした。

「…お、終わってる。」

ガクリ、と膝を突く男に覚えがあって、フェイトははて、と思い、その足に包帯が巻かれているのをみて、一つ頷く。
先ほど、ハーキから介抱を受けていた男性ではないかと。
そうか、彼も執務官候補生だったのか、と頷く。

「静かに。まだ、事情があって遅れた人の結果発表は行っています。貴方のほうも事情は聞いてますので、早くこちらに。」
「え、あ、はい!」

希望に輝く男の人の顔と言うのは、あまり変わらないものだ、と、無邪気なその顔に、ハーキやユーノの顔を思い出して、少し笑った。
ちなみに、正一のそう言う顔は見たことがない。
あの男は基本的に苦々しい顔か無表情ばかりだ。
本当に、小学生か、年齢詐称ではあるまいか?
お前らが言うな、と正一に言われそうではあるが。

「それでは、両名。共に合格です、おめでとう。」

静かに、あくまで無感動に伝えられた言葉に、思わずフェイトは口を開いて呆然とし、男はキョトンとした。
まあ、それは最初の一瞬だけで、フェイトは満面の笑みを浮かべ、男は意味もなく咆哮していたが。

「とりわけ、フェイト・T・ハラオウン、歴代二位の成績で合格は見事としか言えません。」
「歴代、二位?」

思わずフェイトは呻くが、内心誇らしさと共に、少々残念でもあった。
一位ならば、ハーキに有無を言わさず脱帽させることができたのに、と。

「ちなみに、一位は貴方の兄上です。」
「…え?」

クロノ、なんだ、と思わずフェイトは呻いたが、それはそれで、仕方がないか、とも思った。
クロノを上回っているとは、まだフェイトも思えなかったから。

「それでは、執務官としての説明をはじめます。いいですか、フェイト・T・ハラオウン、ティーダ・ランスター?」
『はい!』





ハーキは一人、リビングで料理しながら、マルチタスクで考え事をしていたりする。

「世の中って、凄いなぁ。」

今回の偶然の顛末に、ハーキは思わず呻いてしまうのだった。

ー続くー

と言うわけで、ティーダさん生存です。
ハーキは事情聴取の時にそれを聞いて驚いたり。
次回は、フェイトのお祝いかなぁ。
posted by: g-wing | 逆行中 | 23:24 | comments(0) | trackbacks(0) |









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